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写真家・六田知弘の近況 2023
展覧会や出版物、イベントの告知や六田知弘の近況報告を随時掲載していきます(毎週金曜日更新)。
過去のアーカイブ
- 2023.09.22 アカボシゴマダラと「運慶と快慶」
先日、息子の撮影助手として根津神社の例大祭に行った時、参道の鳥居をくぐってすぐの敷石に、東京ではあまり見かけない蝶がとまって羽を開いたり閉じたりたりしているのを見つけました。
それをスマホで撮ったのですが、そうすると何もしていないのに、画面にいきなり同種だと思われる蝶の写真とアカボシゴマダラという名前が出てきました。
多分以前にインストールをしていたことを忘れていたアプリがなにかの加減で起動したのでしょうが、ちょっと戸惑ってしまいました。
自分でインストールしておきながらこういうのも矛盾だとは思うのですが、デジタルの発展にともなって、現実と仮想との境目がなくなって、ただ名前やそれに関する知識だけを簡単に得て、実物と実際に接することもなしに次から次へととんでいく。人間が人間として生きるためのとても大事なあるものが、知らぬ間に抜け落ちていくような怖さを覚えてしまいました。
それはさておき、「運慶と快慶 六田知弘 佐々木香輔 写真展」の開催まであと10日と迫りました。
準備は万全とは言えませんが、それなりに整いつつあります。
今、私の頭を占めているのが10月7日のトークショーのこと。
運慶については実際に運慶仏を撮っているので、普段考えていることを話せばいいのでしょうが、快慶については私は3〜4體しか撮ったことがなく、快慶の仏像は根本的に運慶のものとはだいぶ性格が違うように思うので、さてどのように話したらいいのか、、。
同じ康慶の弟子でありながら運慶作の仏像と快慶のそれとはあまりにも違っています。その違いは何なのか、運慶を撮った私と快慶を撮った佐々木さんのそれぞれの視点あるいは眼差しを通した写真によって、お互いがどう交わるのか、交わらないのか。
ひとつの会場で湧き上がる運慶と快慶、そして私と佐々木さんとの対決と共鳴の響き?もお楽しみいただけるスリリングな写真展になったらいいなと思っています。(六田知弘)-
- 2023.09.15 写真集『運慶』の印刷と、写真展のトークショーのお知らせ
この二日間、写真集『運慶』印刷本番の立ち会で、埼玉の印刷所に来ています。
カリスマ的プリンティングディレクターの高柳 昇さんのディレクションのもと、刷り出されてきたものはモノクロ、カラーとも思わず唸ってしまうような出来栄えで、工場の控え室に刷り上がったものを持ってきてあらためて見ていると、知らないうちに写真の表面を手のひらで何度も撫でていたりして。
この六田知弘写真集『運慶』は「運慶と快慶 六田知弘 佐々木香輔 写真展」の初日10月3日に合わせて、求龍堂から発売されます。乞うご期待を!
それと、一方の「運慶と快慶 六田知弘 佐々木香輔 写真展」ですが、10月3日から11月26日までの予定で有楽町の東京国際フォーラム内の相田みつを美術館第2ホールで開催されます。(月曜休館、第2ホールは入場無料)
そして10月7日(土)の17時から約1時間、快慶を撮った佐々木香輔さんと運慶を撮った私とのトークショーを行います。(その後、続いて簡単なレセプションも行います。)
70名様定員ですので相田みつを美術館のホームページからお早めにお申し込みをお願いします。
今年は本当に忙しくて、身体も頭もそれについていくのがやっとという状態で、皆さんにご迷惑をおかけしてばかりなのですが、なんとかめげずに頑張っています。(六田知弘)-
- 2023.09.08 写真集「運慶」の印刷
今日は、10月3日から東京国際フォーラム内の相田みつを美術館第2ホールで開催の写真展「運慶と快慶 六田知弘・佐々木香輔写真展」の開催とあわせて出版される写真集『運慶』の印刷の色校正のために印刷所に行ってきました。
いやー、いままでの仏像写真集とはデザインも、印刷も、構成も、もちろん写真も、一味も二味も違う、素晴らしい写真集になりそうです!
写真展の準備も、途中思わぬアクシデントもありましたが、皆さんのご協力を得て順調にすすんでいます。写真展の詳細については近いうちにあらためておしらせしますが、タイトルにあるように、運慶と快慶の仏像を 私が運慶仏、佐々木香輔氏が快慶仏をそれぞれ撮ったものを一つの会場に並べる写真展です。
現在開催中の写真展「床の記憶 南製作所」も9日(土)、10日(日)のあと2日間を残すのみですが、両日は私も会場に行っております。
なんだか、本当にバタバタと落ち着かないのですが、やれるうちに、やるべきことをやっていきたいと思っています。(六田知弘)-
- 2023.09.01 南製作所にて
東京大田区の元町工場 ギャラリー南製作所 で写真展「床の記憶 南製作所」が始まって一週間経ちました。
暑いのに意外と多くの方々においで頂いているようでありがたいです。
私は、10月3日から始まる「運慶と快慶 六田知弘・佐々木香輔 写真展」のためのプリントなどの準備であまり会場には行けていないのですが、9月2日3日の土日は在廊します。
写真は先月27日のギャラリートークの前においでいただいたお客さんにこの写真はこういうふうにしてここで撮ったのだと説明するためにスマホでその場で撮ったものです。私の足も写っているので臨場感もあるでしょう。
写真展は10日まで。月曜と木曜は休廊です。
よかったらお立ち寄りいただき、写真の模様はこの床のどこにあるのか探すというのも一興です。(六田知弘)-
- 2023.08.25 「床の記憶 南製作所」の設置なんとか
今、なんとか展示作業が終わりました。写真展「床の記憶 南製作所」です。
展示作業の終盤に立ち寄られた方が「作品があまりにも背景に溶け込んでしまってる。ホワイトキューブの空間においた方がもっと映えると思う」と一言ご感想。
背景に溶け込んでいるのは当たり前。写真を撮った町工場跡の、まさにその空間に作品を展示しているのですから。
エアコンがないので暑いことは暑いですが、風も扉口から裏へと通り抜けます。
27日(日曜日)16時からこちらで個展されたことがある写真家の大塚 忍さんと彫刻家の青野 正さんにも同席していただいてギャラリートーク行います。(六田知弘)-
- 2023.08.18 吉野からの引越しと写真展「床の記憶 南製作所」
台風一過とはいえ、めちゃくちゃ蒸し暑い中、吉野の仕事場を畳んで橿原の実家に引っ越しました。
荷物をトラックに積んだ後のがらんとした部屋から窓越しに見る吉野の山の風景はなんとも心に沁みました。
3年間という短い期間だったけれどもここに居れてよかったと思います。
一晩経った今、夜寝ている時に山から吉野川を越えて聞こえてきた鹿の鳴き声をふと思い出しました。
ところで前にもお知らせしましたが、26日から東京大田区西糀谷のギャラリー南製作所で私の写真展「床の記憶 南製作所」が始まります。(9月10日まで12:00から18:00まで 月・木休み)
ギャラリーのオーナーのお父様がやっていた南製作所という町工場の跡地をそのままギャラリーにしたところで、今回の展覧会は、その床を撮った写真をその現場で展示するというおもしろい企画です。
未だにうっすらと残る機械油の匂いに包まれて、床に染み入った「時の記憶」を楽しんでいただければ幸いです。
オープン翌日の8月27日(日曜日)の16時からトークショーもやりますので暑い中ですが、ご来場お待ちいたしております。(六田知弘)-
- 2023.08.14 新盆を終えて
手探り状態でですが母の新盆をなんとか終えて、今日はあと二日に迫る吉野の仕事場の引越し準備をしています。
明日には台風が紀伊半島を直撃する可能性があるために今日一日で準備を終えてしまわねば!
昨夕、吉野川の河辺でまだ穏やかな水面を撮りました。黄色い雲が映った水の上でアメンボが小さい波紋を作っているのを見ていると先祖たちとの繋がりのようなものを感じてしまうのはやっぱりお盆だからでしょうか。
吉野に仕事場を借りていたのは3年間でしたが、その間いろいろあったけれどいい時間を過ごさせてもらいました。(六田知弘)-
- 2023.08.04 町工場の「床の記憶」写真展
東京大田区の廃業した町工場の床を5年ほど前から少しづつ撮っています。
暑い最中ですが、それをまとめて、写真展をします。
先日その大きなプリントがやっとできました。
機械油のにおいが今なお残る空間で、そこここに残る旋盤などの工作機械の脚の痕だろう丸や四角い形とその周りに広がる油のシミなどをカメラを覗き続けていると、いつしか深海に浮遊しているような奇妙な感覚になってしまいます。
写真展「床の記憶 南製作所」は8月26日から9月10日まで、今はギャラリーとして使われている、その工場跡で開催します。(ギャラリー南製作所)
詳細はまた追ってご案内させていただきます。(六田知弘)-
- 2023.07.28 吉野川の夕暮れ
吉野の仕事場近くの越部の夕暮れです。
吉野川に掛かる古い石橋の上から西の金剛山の方を向いて撮りました。
この橋の上に立つと、小学3年生の夏だったと思いますが、祖父と一緒にこの橋の近くで泳いでいて、私が渦巻く水に巻き込まれ、祖父がそれに気付いて片手で私をむんずと掴んで思いっきり引っ張り上げられて危うく命拾いをしたことを思い出します。
あの時水の中で見た光景が遠い記憶として私の体のどこかに残っているような、、、。(六田知弘)-
- 2023.07.21 吉野の窓から
久しぶりに吉野の仕事場に来ました。
梅雨明け宣言も出され真夏の日差しが眩しいです。
窓を開けると吉野川の水音に混じってアブラゼミとニイニイゼミの声が熱い風にのって押し寄せてくるようです。
ベランダに出ると浅緑の竹が風に吹かれてうねりながら気のようなものを発しています。
今年の2月ごろだったでしょうか、仕事場と吉野川との間の線路脇にあった太くて高いケヤキの大木が根っこから伐られてしまいました。枝などが線路に落ちてきて電車の運行に支障をきたす可能性があるために伐られたのでしょう。
仕方ないのかもしれませんが、窓から、上の方から徐々に切り落とされて最後に直径1メートルほどあるような幹の明るい断面を見た時は、ちょっと大袈裟かもしれませんが時間の節目を見せつけられたようでなんとも言えない気分になってしまいました。
その木の切り株も夏になって草で覆われて見えなくなり、ケヤキの大木がある時にはその大きく張り出した枝で隠れていた竹林が光を浴びて風に揺れ、今、私の目を楽しませてくれています。
ベランダの隅っこには今はないケヤキの形見の茶色の葉っぱがかたまって残っています。
母もいなくなった事だしそろそろここを引き払って橿原の家に仕事場を移す時期かもしれないと風に揺らぐ竹を見ながら思っています。(六田知弘)-
- 2023.07.14 奈良の鹿
ここのところ奈良での撮影の日々です。
前にも書きましたが、奈良に来る観光客が日本人より海外からの人の方が多いのじゃないかと思うほどです。今、奈良博の前の蕎麦屋で昼食をとっていますが日本人は我々3人だけ。
奈良博の特別展「聖地 南山城」のお客さんも三分のニは外国人のようで、地味な展覧会なのに結構混み合っています。
今日午前中は奈良博で「春日鹿曼荼羅」を撮りましたが、その神々しさに頭がクラクラするほどでした。(六田知弘)-
- 2023.07.07 ホイアン 壁とヤモリとイトトンボ
カンボジア、ベトナムの旅から戻って一週間経ちました。その間なんやかやとやることがありましたが、いまだに時々ベトナムのホイアンの事を思い出して、すぐにでも向こうに行って写真を撮りたいと思ってしまいます。
上の写真は、ホイアンについた夜、宿の近くの食堂で1食230円ほどの美味しい地元料理をいただきなから、テーブルの向こうの壁を撮ったもの。左上に小さな汚れのように見えるのはヤモリです。
私はこの壁が気に入って、翌日は一眼レフカメラを持ってきて昼ご飯をいただきながらあらためて撮らしてもらいました。
下の写真は、泊まっていたホテルの部屋に舞い込んできたイトトンボを見つけてすかさずパチリ。ベットに接した白い壁を背景に綺麗に画面に入ってくれました。
ホイアンの町は旧市街の中心部は国内外の観光客で溢れていますが、ちょっと路地に入れば、生活臭が溢れています。
その人々の営なみの時間が染み込んだ、青や緑や黄色の壁が私に、また来いといまだに誘いかけてくるように感じます。(六田知弘)-
- 2023.06.30 ホイアンの街角で
酷暑のベトナム、カンボジアから蒸し暑い東京に戻ってきました。
帰ってくると途端にスケジューリングに追われています。ありがたいことです。が、本音は今すぐにでもベトナムのホイアンに飛んで帰りたい。そんな気持ちです。
ホイアンにいたのはたった3日足らずでしたが、あそこはちょっと時間の流れが違うように感じます。なんというか本来人間が持っている体内時計と同じ速さで時間が進んでいるような。少なくとも私にはそう思えます。こんなところで余生を送るのもいいかなとも夢みたいなことを考えてしまうほどです。もっともたった3日の旅行者だからそんなことが言えるのでしょうけれど。
今年もちょうど折り返し点。これから写真集の出版や3つの展覧会や新規の撮影など次々とやるべきことが続きます。
気持ちを切り替えてやるべき事をやっていこうと思います。
写真はホイアンの街角にあるガジュマルの木です。花と赤い線香が幹に刺してあります。街中に木のそこここでこうしたものに出会います。
カミや精霊との交流が生活の中に普通に生きています。なんだか安心してしまいます。(六田知弘)-
- 2023.06.23 雨季?のカンボジア
老後はここに住みつきたいな、と思うほど落ち着いたベトナムのホイアンの街を後にして、二日前にカンボジアのシェムリアップに着きました。
2019年の12月に来てから三年半ぶりのカンボジアです。
昨日、一昨日の二日間、馴染みの遺跡にどっぷりと浸りました。
1日目は、バンティアイ・クディとタ・プローム、2日目はプリア・カーンとタ・ソム。
息がしにくいほどに蒸し暑くて、首からかけた手ぬぐいで滴り落ちる汗を拭きながら一つの遺跡に3時間はたっぷりとかけて、石や草や木や水やトカゲや蜘蛛や木の実や流れる雲を撮っていました。
すでにレインシーズンに入っているはずなのに、乾期でも普段はたっぷりと水に満ちているタ・プロームの環濠もどういうわけか完全に干からびていて、いつも楽しみにしている水面に木々が写り込む景色も撮れずに寂しいかぎり。
2日目に訪れたプリア・カーンの環濠にはなんとか水があったのですが、水面を浮き草がびっしりと覆っていて、わずかな隙間を見つけて撮ったのが、添付の写真です。
そして次のタ・ソムに移ろうとプリア・カーンの東門近くに差し掛かった時に撮ったのがもう一方の写真です。
地雷を踏んで、片足をなくした父親とその妻子らしき三人が、遺跡を訪れる人たち目当てに簡単な音楽を奏でて、物乞いをしています。
カンボジアの主だった遺跡ではこうした傷痍軍人が必ずといっていいほど見かけるのですが、家族でいるのを見るのははじめてです。
そして、よく見ると、三人の前に一匹の若い猿がお供のように何食わぬ顔ですわっています。
お父さんの義足に腰掛けてスイカを食べる猿のしぐさを覗き込む男の子の表情があまりに懐かしく、思わず近寄って、(もちろんバケツにお金をいれてから)写真を撮らせてもらいました。
こんな幸せな表情が世の中にあったのだということを、私はすっかり忘れていたようです。(六田知弘)-
- 2023.06.16 ベトナムとカンボジアへ
今、成田空港の搭乗待合室にいます。
2018年11月のカンボジア以来3年半ぶりの海外です。
今回もカンボジアでの撮影がメインですが、行き帰りにベトナムに寄ってハノイとホイアンの壁、そして初めてのチャンパの遺跡も撮ってこようと思っています。
さてどんな写真が撮れるのか。
来週はカンボジアから報告します。
搭乗手続きが始まりました。
行ってきます。(六田知弘)-
- 2023.06.09 大阪の夕焼け
久々の水の都大阪の夕焼けです。(六田知弘)
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- 2023.06.02 住宅街の夜
自宅と駅との行き来にその前をいつも通る一軒の家が取り壊されました。地盤を掘り返したあと新しい家が建てられようとしているのでしょうが、夜の街灯に照らされた現場はなんだかビルの建設現場のようでちょっと不思議な雰囲気です。(六田知弘)
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- 2023.05.26 緑の風のなか
光揺れる青葉の中を歩いていると姿ないモノたちに取り囲まれているように思えてふと立ち止まり、挨拶がわりに一枚パシャリ。(六田知弘)
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- 2023.05.19 三輪山の虹
ここのところ奈良は大雨が降ったかと思うと30度近くになったりして落ち着かない天気が続いています。
奈良国立博物館での撮影を終えて、橿原の方に車を走らせていると天理の手前辺りでフロントグラスに叩きつけるような激しい雷雨に襲われました。
しかしそれも束の間の荒心で長岳寺あたりまで来ると、ぱったりと止み、西日が道の左右の畑の野菜を黄金色に輝かせていました。そして、左前方を見上げると、三輪山の上に鮮やかな虹が!
思わず国道から西側の農道に入り、車を停めました。
東の山の方はまだ雨が降っているのか、虹は暗い空を背景に、三輪山とそれに重なる景行天皇陵の南端から北は天理の石上神宮辺りまで掛かっているでしょうか。
なんとまあ、「山の辺の道」そのものの上を渡る虹で、絵に描いたような景色じゃありませんか。
古代の人たちもこれと同じような景色を見ていたのだろうと紋切り型に思い浮かべる自分自身に思わず苦笑しながら、よく見ると南側には薄いけれど虹の外側にもう一つの虹が、、。ダブルレインボーでした。
いい事あるかな!(六田知弘)-
- 2023.05.12 バベルの塔
奈良から東京に戻り、今また奈良に向かうため新幹線に乗っています。
東京にいたのは1週間足らずでしたが、毎日どことなく落ち着かなく、東京駅のホームから見える夕陽に輝くビルを見ているとなんとも言えぬ気持ちになってきます。
我々は何に向かって突き進んでいるのか?進んだ向こうに何があるのか。楽園?それとも自滅?
輝くビルの壁面に映った高層ビルはリアルではなく虚影でしかないのですが、虚実ともども私のカメラでは、ブリューゲルが描いた「バベルの塔」の如く、斜めに傾いて撮れてしまうのはなぜでしょう?
もっとも画像編集ソフトを使うとこれぐらいの傾きは、いとも簡単に補正できてしまうのですが、、、(笑)。(六田知弘)-
- 2023.05.08 玉手の小亀
當麻のギャラリーら・しい での「あめつち大和」では初日の當麻寺の練り供養やゴールデンウィークにもかかったおかげで、連日関東や京阪神そして奈良県各地から多くの方々においで頂きました。地元のFMラジオなどにも何度も取り上げられてたり3回のギャラリートークをしたりして写真愛好家の人たちや保育園からの幼なじみや高校のときの同級生なども集い、盛り上がりました。おいでいただきたい方々も私も楽しめたし、お互いいろんな意味で刺激になったと思います。
みなさんありがとうございました。
展覧会終了の翌日、カメラを持って御所の玉手の村中を歩いていたら、川にかかる橋のたもとのアスファルトの上に生まれたばかりのような小さな亀が身動きもせずにうずくまっていました。このところの暑さのせいか乾き切って少し元気がないですが目は動いているので生きているのは確かです。このままにしておくと車などに轢かれてしまうと思い、そっと手に載せ、橋の上から川に投げ入れてやりました。
元気に育ってくれればいいのですが、、、。
この玉手は小学校に上がる前からよく遊んだところ。あの頃とほとんど変わらぬ光の中で写真を撮っていると、風の流れも時の流れも夢のように感じられます。(六田知弘)-
- 2023.04.28 トチノキ
玄関先のトチノキの葉が光を受けて輝いています。
風に吹かれて見ているだけで、「そのままでいいじゃないか」という声が何処かから聞こえてくるように感じます。
植松永次さんの作品を見た時に感じることと同じです。感謝です。(六田知弘)-
- 2023.04.21 「時のイコン」
奈良 當麻のギャラリー「ら・しい」での写真展「あめつち大和」を一時抜け出して、東京に戻ってきました。
用があって、一昨年に東日本大震災から10年の企画展「時のイコン」展をしたギャラリー √K Contemporary に行ったら、たまたま「時のイコン」の展示のときに使ったという白いボードが床に置いてありました。思わずそれをスマホで撮りました。
写った画像を見て、當麻の町中から見えた雨に煙る二上山の景色をなんとなく思い浮かべました。 (六田知弘)-
- 2023.04.14 「あめつち大和」の初日 當麻寺練供養
奈良の當麻(たいま)ギャラリー「ら・しい」での写真展「あめつち大和」の初日がちょうど當麻寺の練供養の日でした。
午後4時から二十五菩薩の仮面をつけた人たちが、境内につけられた渡橋の上をゆっくりと練り歩きます。
これまでにも何度も見たことがあるのですが、今年はいつもとちがい、今にも小雨が降りそうな空に金のお面が鈍く輝いて、此岸と彼岸との境界線が私の方にグッと近づいてきたようで、危うく向こうに連れていかれそうになってしまいました。(六田知弘)-
- 2023.04.08 當麻での写真展
アートフェア東京での展示に続いてのRYUSENDO GALLERY での「wall」も終わり 休む間もなく14日から奈良の當麻で始まる「あめつち大和」の展示作品のプリントをしています。
今回の写真展は故郷の奈良県で撮った39点で構成します。「wall」とは見た目は随分違い、知らない人は同じ作者の写真だとは思わないでしょうが、ちゃんと私の見えないサインが作品の中に入れてありますので、探してみてください。
オープンの4月14日は當麻寺では菩薩面をつけた人達が練り歩く「練り供養」が執り行われます。そして期間の後半はゴーデンウィーク。
大和においでの際は是非立ち寄ってちょっと不思議な大和を楽しんでいただけれれば嬉しいです。(六田知弘)-
- 2023.03.31 「wall」
早々と散りはじめたヤマザクラの下を通って駅まで出ます。
時がプチ プチと微かな音を立てて移り行くのを感じます。
今、東京 京橋のRYUSEDO GALLERYで「wall」開催中です。
先日アートフェア東京でも展示されましたが、その時にスペースの関係で出せなかった作品も加えて、真新しいRYUSEDO GALLERYのゆったりとした空間を使っての展示です。同じ作品でも展示空間を変えると随分見え方も違うものです。
4月2日(日曜日)までと期間は短いのですが、じっくりと落ち着いた空間で「時の堆積」を感じていただきたい。私も会場におりますのでぜひ足をお運びください。(六田知弘)-
- 2023.03.24 「wall」展
吉野の仕事場の窓からは山際にガスがかかってゆっくりと流れていくのがよく見えます。霧の下には咲き始めたヤマザクラが微かに見え隠れしています。朝ベランダに出てストレッチをしながらその様子を撮りました。
さて、東京では「wall」展が京橋の龍泉堂ギャラリーで始まります。これはイタリア、スペイン、インド、そして吉野などで撮った壁の写真を繭山龍泉堂がプロデュースした展示です。
3月29日(水)から4月2日(日)までの5日間と期間は短いですが、大伸ばしした迫力ある「wall」の世界をご堪能ください。
また、あらためてお知らせしますが、4月14日から5月3日まで奈良の當麻(たいま)の古民家ギャラリー「ら・しい」で「あめつち大和」という写真展を開催します。(初日の4月14日「練り供養」が執り行われます。)こちらにもぜひ足をお運びください。(六田知弘)-
- 2023.03.17 白椿 赤椿
白椿と赤椿が木漏れ日の中で揺れていました。
駅に急ぐ道すがら。何も焦ることはないのですけれど・・・。(六田知弘)-
- 2023.03.10 みんぱく
大阪万博記念公園内にある国立民族学博物館で「ラテンアメリカの民衆芸術」展が始まりました。
この展覧会の図録やポスターなどの写真は私と息子との二人で手分けして撮りました。(膨大な数だったので私一人では到底撮りきれなかったでしょう。)
ただ、博物館入口に掲げられた看板は、息子が自分なりにライティングしたものをそのまま私が撮影したもので、言ってみれば二人の共作です。それが大きくメインイメージとして使われて、なんとも嬉しく思っています。(写真クレジットも二人の連名で入っています。)
出品されているものは私が普段撮っているような古いものは少なかったのですが、普段馴染みのない、先住民とスペインなどヨーロッパの文化とが混じり合って生まれた摩訶不思議な世界がとにかく面白くて、少々興奮しながら撮りました。是非、博物館に足を運んでみてください。
12日までアートフェア東京のRYUSENDO GALLERY で世界各地の壁を撮った写真作品「wall」を展示しています。 (六田知弘)-
- 2023.03.03 奈良日和
今、奈良国立博物館で写真を撮っています。
奈良はここ2日ほどポカポカと暖かかったのですが、昨日は朝からどんよりと暗く、シトシトと雨が降って肌寒くて、また冬に戻ったのかと思うような天気でした。でも午前中の撮影を終えて、昼食をとるために外に出ると、嘘みたいに晴れ渡り、博物館の前の池面に今満開の紅梅と観光の人たちが鮮やかに映っていました。
奈良の街は今、円安のせいもあってか外国の観光客が以前よりずっと増えた様に思えます。奈良公園を歩いている人たちの半分くらいが海外からのお客さんでしょうか。鹿と一緒に記念写真を撮ったり、鹿にお辞儀をしてから鹿せんべいをあげたり(なんとお辞儀をしたら鹿もちゃんとお辞儀を返すんですね!。)みなさん日本の春を楽しんでいる様でした。
3月10日から12日まで開催のアートフェア東京でRYUSENDO GALLERY プロデュースで私の壁のシリーズ「wall」が出品されます。会場にお越しの時はお立ち寄りください。(六田知弘)-
- 2023.02.24 「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」
ソビエトのアニメ作家ユーリ ノルシュテインの作品「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」をYouTube でみました。学生の頃か、卒業した直後だったかは定かではないのですが、40年ほど前にこれを見た時の感激は忘れられません。
私は卒業後2年ほどでヒマラヤのシェルパの村に行ってそこで暮らしていましたが、向こうで、時々、何かの拍子にこのアニメの一シーンを頭に思い浮かべたことがあったことをYouTubeを見ながら思い出しました。そして今でもほとんどのシーンを、あたかも昨日見たかのように、鮮やかに覚えているのはなぜでしょう。
ストーリーはあるような、ないようなもので、ある意味、かなり情緒的なものなのですが、決して上っ面を流れてしまうものではなくて、私のたましいの奥の方にある襞に4本の手の指を突っ込まれて、撫でまわされている様な感覚、と言ったらいいのでしょうか。
それだから数十年経って見ても、それぞれのシーンを鮮やかに思い出されるのだろうと思います。
すごい作家がいたものです。
こんな時ではありますが、なんだかロシアに写真を撮りに行ってみたくなりました。(六田知弘)-
- 2023.02.17 仁王の足
東大寺南大門の金剛力士像のうちの大仏殿に向かって左側にある吽形(うんぎょう)の左足です。金網の隙間にスマホのレンズをくっつけて撮りました。
運慶がどこまでその制作に関わっているのかは不明ですが、触ってみたい、そしてムズムズと写欲が湧いてくる魅力的な足でした。いつか本格的に撮れる日が来る事を願っています。
今年の秋には運慶の写真集を出す予定です。それまでにはちょっと間に合いそうにはないですが、、、。(六田知弘)-
- 2023.02.10 モルダヴァイト
天然ガラスの一種モルダヴァイトを手に載せると、言葉は消えてしまいます。
今から約1500万年前に宇宙から巨大隕石が落ちてきて、その衝撃でガラス化した液状の物質が上空に飛び散り、猛スピードで飛んでいるうちに凝結して地上に落下したものだといいます。
1500万年前というと地球上にまだ人類は出現していなかった頃で、気が遠くなるような昔のように思われますが、宇宙の時間からするとごく最近。
そんな一瞬にできたものを、今ここにいる私の手のひらに載せていることの不思議さでやっぱり言葉は消えてしまいます。(こう、言葉で言うと矛盾するようですけれど、、、。)(六田知弘)-
- 2023.02.03 白牡丹
写真展の打ち合わせで當麻を訪れたついでに當麻寺を巡りました。
奥の院は今、冬牡丹の季節です。
私は白色のものが好きでいつもついつい見惚れてしまいます。
半透明の花びらの微妙な面の湾曲とその重なりがつくりだす艶やかな陰影の豊かさには驚かされます。
これを絵にするのは相当な技術が必要でしょう。写真だとスマホででも簡単に写せるのですけれど・・。(六田知弘)-
- 2023.01.27 白い椿
白い椿の花が落ちているのを見つけるといつもスマホで写真を撮ってしまいます。
電車の時間を気にしながらも思わず屈んで撮りました。
一枚の花びらの端っこだけにうっすらと陽光が当たり、影になった部分には空の青が映えて、薄紫に微かに発光しているかのように見えました。(六田知弘)-
- 2023.01.20 ここ数日
母を見送って、東京に戻ってからの毎晩、奈良の當麻寺(たいまでら)の傍にあるギャラリーで4月半ばから開催予定の個展の為の写真のセレクトと構成をしていました。
年末から年始にかけて、これまでに奈良県内で撮ってきた膨大な数(おそらく数十万カットはあるでしょう)のデータをいくつものハードディスク内にある、目についたフォルダを片っ端から開いて(それでも全部は開ききれなかったのですが)、そこからやっとのことで800カットを引っ張り出して、さらに約200までに絞りこみ、小さなプリントを作ったところで、母の訃報でした。
東京にもどってから、母の小型の遺影を作業机の横に置いて、小さなプリントを机上に並べ、ギャラリーの平面図を見ながら写真の構成をしていたのですが、それが自分でも驚くほど集中して、スムーズにできました。
昼間は、いくつかの打ち合わせや3月のアートフェア東京に出品する作品の大型プリント作業、そして上野の西洋美術館の「ピカソとその時代展」を観に行ったりして、いつもなら結構疲れているはずなのですが、、、。
写真は「ピカソとその時代」展の会場でスマホで撮ったクレーの作品「港の舟IIc」の一部分と、シャッターを押した後にスマホを下ろした時に液晶画面に映った床上の自分の影が面白くて思わず続けて撮った写真です。
今年は5〜6回の写真展の開催と、少なくとも1冊の写真集の出版を予定しています。
決して焦らず、深く息をしながら、自分の役割を果たしていければと思っています。(六田知弘)-
- 2023.01.13 母の肖像画
実際よりだいぶ若いですが、母の肖像画ができました。
7〜8年ほど前に私の姪っ子の結婚式の時に撮った写真を元に鉛筆で描いたものです。元になる写真を渡してからこの絵ができるまで半日足らず。その早さと上手さにちょっと驚きました。
聞くところによると、東南アジアのどこかの国の美術の学生が描いたとの事で、ネットで写真を送って、それを元にすぐに描いてデータで送ってきたものをプリントしたようです。
元気な頃の母の笑顔そのもので、一目見た瞬間にぐっと胸が熱くなってしまいました。そうなんです。長く老人施設に入っていた母が、一昨日に亡くなりました。88歳でした。
母のことについて思うと、幼かったころの頃の様々な思いがとめどなく湧き出てきます。懐かしい思い出というものもいっぱいあるのですが、それよりもっと、幼い頃の私の精神の根幹の部分に母の存在、そして不在、が良きにしろ悪きにしろ大きな作用を及ぼしていて、それが私の人生に決定的な影響を及ぼし続けているということは、私なりにではありますが解ってはいるつもりです。
今はまだ母が向こう側に行ってしまったという実感はほとんどないのですが、さてこの後、その「母なるもの」が私にどのように働きかけてくるのかこないのか、、、。
今、ひとり、お通夜の番をしながら、一言。
この廻り巡る宇宙の中で、私の母であってくれたこと、ほんとうにありがとうございました。(六田知弘)-
- 2023.01.06 白くて、平らで、すべすべの石
私の2023年は、読書をしているうちに明けました。
暮れから正月にかけてほとんど毎日、朝から深夜まで、パソコンに向かってこれまでに撮った写真の整理をしたり、読書をしたりして過ごしました。雑事を忘れての三昧の時間は久しぶりのように思います。
その間、ずっと握り続けていたのが一つの白く平たいすべすべの石。
去年、熊野詣をしたときに、熊野市の「花の窟」近くの海岸で拾ってきて机の上に置いていたものですが、何気なく手にとったらなんともいえない感触で、知らぬ間にそれを左の掌に握ったままで、指でキーボードをたたいたり本のページを押さえたり。
この石が気持ちを鎮めて、なおかつ集中力を持続させる作用を持っていたのか、読書も写真の整理作業もえらく捗ったように感じます。
些細なものかもしれませんが、有難いものを見つけだして、なんとはなしに、今年はいい年になるように思います。
皆さんにとってもどうぞ良い年でありますように!(六田知弘)