トピックス
写真家・六田知弘の近況 2023
展覧会や出版物、イベントの告知や六田知弘の近況報告を随時掲載していきます(毎週金曜日更新)。
過去のアーカイブ
- 2023.06.02 住宅街の夜
自宅と駅との行き来にその前をいつも通る一軒の家が取り壊されました。地盤を掘り返したあと新しい家が建てられようとしているのでしょうが、夜の街灯に照らされた現場はなんだかビルの建設現場のようでちょっと不思議な雰囲気です。(六田知弘)
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- 2023.05.26 緑の風のなか
光揺れる青葉の中を歩いていると姿ないモノたちに取り囲まれているように思えてふと立ち止まり、挨拶がわりに一枚パシャリ。(六田知弘)
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- 2023.05.19 三輪山の虹
ここのところ奈良は大雨が降ったかと思うと30度近くになったりして落ち着かない天気が続いています。
奈良国立博物館での撮影を終えて、橿原の方に車を走らせていると天理の手前辺りでフロントグラスに叩きつけるような激しい雷雨に襲われました。
しかしそれも束の間の荒心で長岳寺あたりまで来ると、ぱったりと止み、西日が道の左右の畑の野菜を黄金色に輝かせていました。そして、左前方を見上げると、三輪山の上に鮮やかな虹が!
思わず国道から西側の農道に入り、車を停めました。
東の山の方はまだ雨が降っているのか、虹は暗い空を背景に、三輪山とそれに重なる景行天皇陵の南端から北は天理の石上神宮辺りまで掛かっているでしょうか。
なんとまあ、「山の辺の道」そのものの上を渡る虹で、絵に描いたような景色じゃありませんか。
古代の人たちもこれと同じような景色を見ていたのだろうと紋切り型に思い浮かべる自分自身に思わず苦笑しながら、よく見ると南側には薄いけれど虹の外側にもう一つの虹が、、。ダブルレインボーでした。
いい事あるかな!(六田知弘)-
- 2023.05.12 バベルの塔
奈良から東京に戻り、今また奈良に向かうため新幹線に乗っています。
東京にいたのは1週間足らずでしたが、毎日どことなく落ち着かなく、東京駅のホームから見える夕陽に輝くビルを見ているとなんとも言えぬ気持ちになってきます。
我々は何に向かって突き進んでいるのか?進んだ向こうに何があるのか。楽園?それとも自滅?
輝くビルの壁面に映った高層ビルはリアルではなく虚影でしかないのですが、虚実ともども私のカメラでは、ブリューゲルが描いた「バベルの塔」の如く、斜めに傾いて撮れてしまうのはなぜでしょう?
もっとも画像編集ソフトを使うとこれぐらいの傾きは、いとも簡単に補正できてしまうのですが、、、(笑)。(六田知弘)-
- 2023.05.08 玉手の小亀
當麻のギャラリーら・しい での「あめつち大和」では初日の當麻寺の練り供養やゴールデンウィークにもかかったおかげで、連日関東や京阪神そして奈良県各地から多くの方々においで頂きました。地元のFMラジオなどにも何度も取り上げられてたり3回のギャラリートークをしたりして写真愛好家の人たちや保育園からの幼なじみや高校のときの同級生なども集い、盛り上がりました。おいでいただきたい方々も私も楽しめたし、お互いいろんな意味で刺激になったと思います。
みなさんありがとうございました。
展覧会終了の翌日、カメラを持って御所の玉手の村中を歩いていたら、川にかかる橋のたもとのアスファルトの上に生まれたばかりのような小さな亀が身動きもせずにうずくまっていました。このところの暑さのせいか乾き切って少し元気がないですが目は動いているので生きているのは確かです。このままにしておくと車などに轢かれてしまうと思い、そっと手に載せ、橋の上から川に投げ入れてやりました。
元気に育ってくれればいいのですが、、、。
この玉手は小学校に上がる前からよく遊んだところ。あの頃とほとんど変わらぬ光の中で写真を撮っていると、風の流れも時の流れも夢のように感じられます。(六田知弘)-
- 2023.04.28 トチノキ
玄関先のトチノキの葉が光を受けて輝いています。
風に吹かれて見ているだけで、「そのままでいいじゃないか」という声が何処かから聞こえてくるように感じます。
植松永次さんの作品を見た時に感じることと同じです。感謝です。(六田知弘)-
- 2023.04.21 「時のイコン」
奈良 當麻のギャラリー「ら・しい」での写真展「あめつち大和」を一時抜け出して、東京に戻ってきました。
用があって、一昨年に東日本大震災から10年の企画展「時のイコン」展をしたギャラリー √K Contemporary に行ったら、たまたま「時のイコン」の展示のときに使ったという白いボードが床に置いてありました。思わずそれをスマホで撮りました。
写った画像を見て、當麻の町中から見えた雨に煙る二上山の景色をなんとなく思い浮かべました。 (六田知弘)-
- 2023.04.14 「あめつち大和」の初日 當麻寺練供養
奈良の當麻(たいま)ギャラリー「ら・しい」での写真展「あめつち大和」の初日がちょうど當麻寺の練供養の日でした。
午後4時から二十五菩薩の仮面をつけた人たちが、境内につけられた渡橋の上をゆっくりと練り歩きます。
これまでにも何度も見たことがあるのですが、今年はいつもとちがい、今にも小雨が降りそうな空に金のお面が鈍く輝いて、此岸と彼岸との境界線が私の方にグッと近づいてきたようで、危うく向こうに連れていかれそうになってしまいました。(六田知弘)-
- 2023.04.08 當麻での写真展
アートフェア東京での展示に続いてのRYUSENDO GALLERY での「wall」も終わり 休む間もなく14日から奈良の當麻で始まる「あめつち大和」の展示作品のプリントをしています。
今回の写真展は故郷の奈良県で撮った39点で構成します。「wall」とは見た目は随分違い、知らない人は同じ作者の写真だとは思わないでしょうが、ちゃんと私の見えないサインが作品の中に入れてありますので、探してみてください。
オープンの4月14日は當麻寺では菩薩面をつけた人達が練り歩く「練り供養」が執り行われます。そして期間の後半はゴーデンウィーク。
大和においでの際は是非立ち寄ってちょっと不思議な大和を楽しんでいただけれれば嬉しいです。(六田知弘)-
- 2023.03.31 「wall」
早々と散りはじめたヤマザクラの下を通って駅まで出ます。
時がプチ プチと微かな音を立てて移り行くのを感じます。
今、東京 京橋のRYUSEDO GALLERYで「wall」開催中です。
先日アートフェア東京でも展示されましたが、その時にスペースの関係で出せなかった作品も加えて、真新しいRYUSEDO GALLERYのゆったりとした空間を使っての展示です。同じ作品でも展示空間を変えると随分見え方も違うものです。
4月2日(日曜日)までと期間は短いのですが、じっくりと落ち着いた空間で「時の堆積」を感じていただきたい。私も会場におりますのでぜひ足をお運びください。(六田知弘)-
- 2023.03.24 「wall」展
吉野の仕事場の窓からは山際にガスがかかってゆっくりと流れていくのがよく見えます。霧の下には咲き始めたヤマザクラが微かに見え隠れしています。朝ベランダに出てストレッチをしながらその様子を撮りました。
さて、東京では「wall」展が京橋の龍泉堂ギャラリーで始まります。これはイタリア、スペイン、インド、そして吉野などで撮った壁の写真を繭山龍泉堂がプロデュースした展示です。
3月29日(水)から4月2日(日)までの5日間と期間は短いですが、大伸ばしした迫力ある「wall」の世界をご堪能ください。
また、あらためてお知らせしますが、4月14日から5月3日まで奈良の當麻(たいま)の古民家ギャラリー「ら・しい」で「あめつち大和」という写真展を開催します。(初日の4月14日「練り供養」が執り行われます。)こちらにもぜひ足をお運びください。(六田知弘)-
- 2023.03.17 白椿 赤椿
白椿と赤椿が木漏れ日の中で揺れていました。
駅に急ぐ道すがら。何も焦ることはないのですけれど・・・。(六田知弘)-
- 2023.03.10 みんぱく
大阪万博記念公園内にある国立民族学博物館で「ラテンアメリカの民衆芸術」展が始まりました。
この展覧会の図録やポスターなどの写真は私と息子との二人で手分けして撮りました。(膨大な数だったので私一人では到底撮りきれなかったでしょう。)
ただ、博物館入口に掲げられた看板は、息子が自分なりにライティングしたものをそのまま私が撮影したもので、言ってみれば二人の共作です。それが大きくメインイメージとして使われて、なんとも嬉しく思っています。(写真クレジットも二人の連名で入っています。)
出品されているものは私が普段撮っているような古いものは少なかったのですが、普段馴染みのない、先住民とスペインなどヨーロッパの文化とが混じり合って生まれた摩訶不思議な世界がとにかく面白くて、少々興奮しながら撮りました。是非、博物館に足を運んでみてください。
12日までアートフェア東京のRYUSENDO GALLERY で世界各地の壁を撮った写真作品「wall」を展示しています。 (六田知弘)-
- 2023.03.03 奈良日和
今、奈良国立博物館で写真を撮っています。
奈良はここ2日ほどポカポカと暖かかったのですが、昨日は朝からどんよりと暗く、シトシトと雨が降って肌寒くて、また冬に戻ったのかと思うような天気でした。でも午前中の撮影を終えて、昼食をとるために外に出ると、嘘みたいに晴れ渡り、博物館の前の池面に今満開の紅梅と観光の人たちが鮮やかに映っていました。
奈良の街は今、円安のせいもあってか外国の観光客が以前よりずっと増えた様に思えます。奈良公園を歩いている人たちの半分くらいが海外からのお客さんでしょうか。鹿と一緒に記念写真を撮ったり、鹿にお辞儀をしてから鹿せんべいをあげたり(なんとお辞儀をしたら鹿もちゃんとお辞儀を返すんですね!。)みなさん日本の春を楽しんでいる様でした。
3月10日から12日まで開催のアートフェア東京でRYUSENDO GALLERY プロデュースで私の壁のシリーズ「wall」が出品されます。会場にお越しの時はお立ち寄りください。(六田知弘)-
- 2023.02.24 「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」
ソビエトのアニメ作家ユーリ ノルシュテインの作品「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」をYouTube でみました。学生の頃か、卒業した直後だったかは定かではないのですが、40年ほど前にこれを見た時の感激は忘れられません。
私は卒業後2年ほどでヒマラヤのシェルパの村に行ってそこで暮らしていましたが、向こうで、時々、何かの拍子にこのアニメの一シーンを頭に思い浮かべたことがあったことをYouTubeを見ながら思い出しました。そして今でもほとんどのシーンを、あたかも昨日見たかのように、鮮やかに覚えているのはなぜでしょう。
ストーリーはあるような、ないようなもので、ある意味、かなり情緒的なものなのですが、決して上っ面を流れてしまうものではなくて、私のたましいの奥の方にある襞に4本の手の指を突っ込まれて、撫でまわされている様な感覚、と言ったらいいのでしょうか。
それだから数十年経って見ても、それぞれのシーンを鮮やかに思い出されるのだろうと思います。
すごい作家がいたものです。
こんな時ではありますが、なんだかロシアに写真を撮りに行ってみたくなりました。(六田知弘)-
- 2023.02.17 仁王の足
東大寺南大門の金剛力士像のうちの大仏殿に向かって左側にある吽形(うんぎょう)の左足です。金網の隙間にスマホのレンズをくっつけて撮りました。
運慶がどこまでその制作に関わっているのかは不明ですが、触ってみたい、そしてムズムズと写欲が湧いてくる魅力的な足でした。いつか本格的に撮れる日が来る事を願っています。
今年の秋には運慶の写真集を出す予定です。それまでにはちょっと間に合いそうにはないですが、、、。(六田知弘)-
- 2023.02.10 モルダヴァイト
天然ガラスの一種モルダヴァイトを手に載せると、言葉は消えてしまいます。
今から約1500万年前に宇宙から巨大隕石が落ちてきて、その衝撃でガラス化した液状の物質が上空に飛び散り、猛スピードで飛んでいるうちに凝結して地上に落下したものだといいます。
1500万年前というと地球上にまだ人類は出現していなかった頃で、気が遠くなるような昔のように思われますが、宇宙の時間からするとごく最近。
そんな一瞬にできたものを、今ここにいる私の手のひらに載せていることの不思議さでやっぱり言葉は消えてしまいます。(こう、言葉で言うと矛盾するようですけれど、、、。)(六田知弘)-
- 2023.02.03 白牡丹
写真展の打ち合わせで當麻を訪れたついでに當麻寺を巡りました。
奥の院は今、冬牡丹の季節です。
私は白色のものが好きでいつもついつい見惚れてしまいます。
半透明の花びらの微妙な面の湾曲とその重なりがつくりだす艶やかな陰影の豊かさには驚かされます。
これを絵にするのは相当な技術が必要でしょう。写真だとスマホででも簡単に写せるのですけれど・・。(六田知弘)-
- 2023.01.27 白い椿
白い椿の花が落ちているのを見つけるといつもスマホで写真を撮ってしまいます。
電車の時間を気にしながらも思わず屈んで撮りました。
一枚の花びらの端っこだけにうっすらと陽光が当たり、影になった部分には空の青が映えて、薄紫に微かに発光しているかのように見えました。(六田知弘)-
- 2023.01.20 ここ数日
母を見送って、東京に戻ってからの毎晩、奈良の當麻寺(たいまでら)の傍にあるギャラリーで4月半ばから開催予定の個展の為の写真のセレクトと構成をしていました。
年末から年始にかけて、これまでに奈良県内で撮ってきた膨大な数(おそらく数十万カットはあるでしょう)のデータをいくつものハードディスク内にある、目についたフォルダを片っ端から開いて(それでも全部は開ききれなかったのですが)、そこからやっとのことで800カットを引っ張り出して、さらに約200までに絞りこみ、小さなプリントを作ったところで、母の訃報でした。
東京にもどってから、母の小型の遺影を作業机の横に置いて、小さなプリントを机上に並べ、ギャラリーの平面図を見ながら写真の構成をしていたのですが、それが自分でも驚くほど集中して、スムーズにできました。
昼間は、いくつかの打ち合わせや3月のアートフェア東京に出品する作品の大型プリント作業、そして上野の西洋美術館の「ピカソとその時代展」を観に行ったりして、いつもなら結構疲れているはずなのですが、、、。
写真は「ピカソとその時代」展の会場でスマホで撮ったクレーの作品「港の舟IIc」の一部分と、シャッターを押した後にスマホを下ろした時に液晶画面に映った床上の自分の影が面白くて思わず続けて撮った写真です。
今年は5〜6回の写真展の開催と、少なくとも1冊の写真集の出版を予定しています。
決して焦らず、深く息をしながら、自分の役割を果たしていければと思っています。(六田知弘)-
- 2023.01.13 母の肖像画
実際よりだいぶ若いですが、母の肖像画ができました。
7〜8年ほど前に私の姪っ子の結婚式の時に撮った写真を元に鉛筆で描いたものです。元になる写真を渡してからこの絵ができるまで半日足らず。その早さと上手さにちょっと驚きました。
聞くところによると、東南アジアのどこかの国の美術の学生が描いたとの事で、ネットで写真を送って、それを元にすぐに描いてデータで送ってきたものをプリントしたようです。
元気な頃の母の笑顔そのもので、一目見た瞬間にぐっと胸が熱くなってしまいました。そうなんです。長く老人施設に入っていた母が、一昨日に亡くなりました。88歳でした。
母のことについて思うと、幼かったころの頃の様々な思いがとめどなく湧き出てきます。懐かしい思い出というものもいっぱいあるのですが、それよりもっと、幼い頃の私の精神の根幹の部分に母の存在、そして不在、が良きにしろ悪きにしろ大きな作用を及ぼしていて、それが私の人生に決定的な影響を及ぼし続けているということは、私なりにではありますが解ってはいるつもりです。
今はまだ母が向こう側に行ってしまったという実感はほとんどないのですが、さてこの後、その「母なるもの」が私にどのように働きかけてくるのかこないのか、、、。
今、ひとり、お通夜の番をしながら、一言。
この廻り巡る宇宙の中で、私の母であってくれたこと、ほんとうにありがとうございました。(六田知弘)-
- 2023.01.06 白くて、平らで、すべすべの石
私の2023年は、読書をしているうちに明けました。
暮れから正月にかけてほとんど毎日、朝から深夜まで、パソコンに向かってこれまでに撮った写真の整理をしたり、読書をしたりして過ごしました。雑事を忘れての三昧の時間は久しぶりのように思います。
その間、ずっと握り続けていたのが一つの白く平たいすべすべの石。
去年、熊野詣をしたときに、熊野市の「花の窟」近くの海岸で拾ってきて机の上に置いていたものですが、何気なく手にとったらなんともいえない感触で、知らぬ間にそれを左の掌に握ったままで、指でキーボードをたたいたり本のページを押さえたり。
この石が気持ちを鎮めて、なおかつ集中力を持続させる作用を持っていたのか、読書も写真の整理作業もえらく捗ったように感じます。
些細なものかもしれませんが、有難いものを見つけだして、なんとはなしに、今年はいい年になるように思います。
皆さんにとってもどうぞ良い年でありますように!(六田知弘)