トピックス
写真家・六田知弘の近況 2023
展覧会や出版物、イベントの告知や六田知弘の近況報告を随時掲載していきます(毎週金曜日更新)。
過去のアーカイブ
- 2023.03.17 白椿 赤椿
白椿と赤椿が木漏れ日の中で揺れていました。
駅に急ぐ道すがら。何も焦ることはないのですけれど・・・。(六田知弘)-
- 2023.03.10 みんぱく
大阪万博記念公園内にある国立民族学博物館で「ラテンアメリカの民衆芸術」展が始まりました。
この展覧会の図録やポスターなどの写真は私と息子との二人で手分けして撮りました。(膨大な数だったので私一人では到底撮りきれなかったでしょう。)
ただ、博物館入口に掲げられた看板は、息子が自分なりにライティングしたものをそのまま私が撮影したもので、言ってみれば二人の共作です。それが大きくメインイメージとして使われて、なんとも嬉しく思っています。(写真クレジットも二人の連名で入っています。)
出品されているものは私が普段撮っているような古いものは少なかったのですが、普段馴染みのない、先住民とスペインなどヨーロッパの文化とが混じり合って生まれた摩訶不思議な世界がとにかく面白くて、少々興奮しながら撮りました。是非、博物館に足を運んでみてください。
12日までアートフェア東京のRYUSENDO GALLERY で世界各地の壁を撮った写真作品「wall」を展示しています。 (六田知弘)-
- 2023.03.03 奈良日和
今、奈良国立博物館で写真を撮っています。
奈良はここ2日ほどポカポカと暖かかったのですが、昨日は朝からどんよりと暗く、シトシトと雨が降って肌寒くて、また冬に戻ったのかと思うような天気でした。でも午前中の撮影を終えて、昼食をとるために外に出ると、嘘みたいに晴れ渡り、博物館の前の池面に今満開の紅梅と観光の人たちが鮮やかに映っていました。
奈良の街は今、円安のせいもあってか外国の観光客が以前よりずっと増えた様に思えます。奈良公園を歩いている人たちの半分くらいが海外からのお客さんでしょうか。鹿と一緒に記念写真を撮ったり、鹿にお辞儀をしてから鹿せんべいをあげたり(なんとお辞儀をしたら鹿もちゃんとお辞儀を返すんですね!。)みなさん日本の春を楽しんでいる様でした。
3月10日から12日まで開催のアートフェア東京でRYUSENDO GALLERY プロデュースで私の壁のシリーズ「wall」が出品されます。会場にお越しの時はお立ち寄りください。(六田知弘)-
- 2023.02.24 「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」
ソビエトのアニメ作家ユーリ ノルシュテインの作品「霧のなかのハリネズミ」と「話の話」をYouTube でみました。学生の頃か、卒業した直後だったかは定かではないのですが、40年ほど前にこれを見た時の感激は忘れられません。
私は卒業後2年ほどでヒマラヤのシェルパの村に行ってそこで暮らしていましたが、向こうで、時々、何かの拍子にこのアニメの一シーンを頭に思い浮かべたことがあったことをYouTubeを見ながら思い出しました。そして今でもほとんどのシーンを、あたかも昨日見たかのように、鮮やかに覚えているのはなぜでしょう。
ストーリーはあるような、ないようなもので、ある意味、かなり情緒的なものなのですが、決して上っ面を流れてしまうものではなくて、私のたましいの奥の方にある襞に4本の手の指を突っ込まれて、撫でまわされている様な感覚、と言ったらいいのでしょうか。
それだから数十年経って見ても、それぞれのシーンを鮮やかに思い出されるのだろうと思います。
すごい作家がいたものです。
こんな時ではありますが、なんだかロシアに写真を撮りに行ってみたくなりました。(六田知弘)-
- 2023.02.17 仁王の足
東大寺南大門の金剛力士像のうちの大仏殿に向かって左側にある吽形(うんぎょう)の左足です。金網の隙間にスマホのレンズをくっつけて撮りました。
運慶がどこまでその制作に関わっているのかは不明ですが、触ってみたい、そしてムズムズと写欲が湧いてくる魅力的な足でした。いつか本格的に撮れる日が来る事を願っています。
今年の秋には運慶の写真集を出す予定です。それまでにはちょっと間に合いそうにはないですが、、、。(六田知弘)-
- 2023.02.10 モルダヴァイト
天然ガラスの一種モルダヴァイトを手に載せると、言葉は消えてしまいます。
今から約1500万年前に宇宙から巨大隕石が落ちてきて、その衝撃でガラス化した液状の物質が上空に飛び散り、猛スピードで飛んでいるうちに凝結して地上に落下したものだといいます。
1500万年前というと地球上にまだ人類は出現していなかった頃で、気が遠くなるような昔のように思われますが、宇宙の時間からするとごく最近。
そんな一瞬にできたものを、今ここにいる私の手のひらに載せていることの不思議さでやっぱり言葉は消えてしまいます。(こう、言葉で言うと矛盾するようですけれど、、、。)(六田知弘)-
- 2023.02.03 白牡丹
写真展の打ち合わせで當麻を訪れたついでに當麻寺を巡りました。
奥の院は今、冬牡丹の季節です。
私は白色のものが好きでいつもついつい見惚れてしまいます。
半透明の花びらの微妙な面の湾曲とその重なりがつくりだす艶やかな陰影の豊かさには驚かされます。
これを絵にするのは相当な技術が必要でしょう。写真だとスマホででも簡単に写せるのですけれど・・。(六田知弘)-
- 2023.01.27 白い椿
白い椿の花が落ちているのを見つけるといつもスマホで写真を撮ってしまいます。
電車の時間を気にしながらも思わず屈んで撮りました。
一枚の花びらの端っこだけにうっすらと陽光が当たり、影になった部分には空の青が映えて、薄紫に微かに発光しているかのように見えました。(六田知弘)-
- 2023.01.20 ここ数日
母を見送って、東京に戻ってからの毎晩、奈良の當麻寺(たいまでら)の傍にあるギャラリーで4月半ばから開催予定の個展の為の写真のセレクトと構成をしていました。
年末から年始にかけて、これまでに奈良県内で撮ってきた膨大な数(おそらく数十万カットはあるでしょう)のデータをいくつものハードディスク内にある、目についたフォルダを片っ端から開いて(それでも全部は開ききれなかったのですが)、そこからやっとのことで800カットを引っ張り出して、さらに約200までに絞りこみ、小さなプリントを作ったところで、母の訃報でした。
東京にもどってから、母の小型の遺影を作業机の横に置いて、小さなプリントを机上に並べ、ギャラリーの平面図を見ながら写真の構成をしていたのですが、それが自分でも驚くほど集中して、スムーズにできました。
昼間は、いくつかの打ち合わせや3月のアートフェア東京に出品する作品の大型プリント作業、そして上野の西洋美術館の「ピカソとその時代展」を観に行ったりして、いつもなら結構疲れているはずなのですが、、、。
写真は「ピカソとその時代」展の会場でスマホで撮ったクレーの作品「港の舟IIc」の一部分と、シャッターを押した後にスマホを下ろした時に液晶画面に映った床上の自分の影が面白くて思わず続けて撮った写真です。
今年は5〜6回の写真展の開催と、少なくとも1冊の写真集の出版を予定しています。
決して焦らず、深く息をしながら、自分の役割を果たしていければと思っています。(六田知弘)-
- 2023.01.13 母の肖像画
実際よりだいぶ若いですが、母の肖像画ができました。
7〜8年ほど前に私の姪っ子の結婚式の時に撮った写真を元に鉛筆で描いたものです。元になる写真を渡してからこの絵ができるまで半日足らず。その早さと上手さにちょっと驚きました。
聞くところによると、東南アジアのどこかの国の美術の学生が描いたとの事で、ネットで写真を送って、それを元にすぐに描いてデータで送ってきたものをプリントしたようです。
元気な頃の母の笑顔そのもので、一目見た瞬間にぐっと胸が熱くなってしまいました。そうなんです。長く老人施設に入っていた母が、一昨日に亡くなりました。88歳でした。
母のことについて思うと、幼かったころの頃の様々な思いがとめどなく湧き出てきます。懐かしい思い出というものもいっぱいあるのですが、それよりもっと、幼い頃の私の精神の根幹の部分に母の存在、そして不在、が良きにしろ悪きにしろ大きな作用を及ぼしていて、それが私の人生に決定的な影響を及ぼし続けているということは、私なりにではありますが解ってはいるつもりです。
今はまだ母が向こう側に行ってしまったという実感はほとんどないのですが、さてこの後、その「母なるもの」が私にどのように働きかけてくるのかこないのか、、、。
今、ひとり、お通夜の番をしながら、一言。
この廻り巡る宇宙の中で、私の母であってくれたこと、ほんとうにありがとうございました。(六田知弘)-
- 2023.01.06 白くて、平らで、すべすべの石
私の2023年は、読書をしているうちに明けました。
暮れから正月にかけてほとんど毎日、朝から深夜まで、パソコンに向かってこれまでに撮った写真の整理をしたり、読書をしたりして過ごしました。雑事を忘れての三昧の時間は久しぶりのように思います。
その間、ずっと握り続けていたのが一つの白く平たいすべすべの石。
去年、熊野詣をしたときに、熊野市の「花の窟」近くの海岸で拾ってきて机の上に置いていたものですが、何気なく手にとったらなんともいえない感触で、知らぬ間にそれを左の掌に握ったままで、指でキーボードをたたいたり本のページを押さえたり。
この石が気持ちを鎮めて、なおかつ集中力を持続させる作用を持っていたのか、読書も写真の整理作業もえらく捗ったように感じます。
些細なものかもしれませんが、有難いものを見つけだして、なんとはなしに、今年はいい年になるように思います。
皆さんにとってもどうぞ良い年でありますように!(六田知弘)