六田知弘

MUDA TOMOHIRO >> Topics 2021

トピックス

写真家・六田知弘の近況 2025

展覧会や出版物、イベントの告知や六田知弘の近況報告を随時掲載していきます(毎週金曜日更新)。

過去のアーカイブ

2025.03.28 写真集「三千世界」の印刷本番
写真集「三千世界」の印刷本番

今日は朝から新しい写真集『三千世界』の印刷立会いをやっています。
実は始めの色校正刷りを見た日の夜は眠れぬほど心配してしまいましたが、私が立ち合った一日だけでも印刷所の2人のプリンティングディレクターと3人のオペレーターが9時間ぶっ通しで休みなく驚異的な集中力でここまで持っていってくださいました。本当に感謝です。
この本についての詳細はまたあらためて書かせてもらいます。乞うご期待!(六田知弘)

 

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2025.03.21 白い壁の間に
白い壁の間に

スマホのなかの写真を探していたらこんな画像が出てきました。
自分でもこれは何を撮ったものなのか、いつ撮ったのかしばらく解らなかったのですが・・
そうだ、あのギャラリーの、白い壁の間の階段だったとわかったのは数分後。
そう解ったところで、初期の目的の画像を探しにいく。でもここで、もうしばらく立ち止まってボーッと眺めていたい私です。

ここのところ4月に発行される新しい写真集と、同じく4月から始まる2つの写真展の事で、くたびれた私の頭脳が追いつかず、しばらくアップアップの状態が続いています。
早く落ち着いてボーッと意味のない写真を撮っていたいものですが、とりあえず今日帰ったら、パソコンの机の上に転がっている石でも触って慰めていようと思います。(六田知弘)

 

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2025.03.14 お水取り
お水取り

十数年ぶりに東大寺の修二会(お水取り)に参拝しました。
12日は籠松明を外から拝し、13日は松明の後、二月堂内陣と帷を隔てた礼堂まで入らせていただいて、夜8時から翌日午前1時過ぎの達陀(だったん)終了までの5時間余り、灯明の薄暗い光と、声明と鳴り響く床の音、そして燃え盛る松明の炎の明かりと匂いに包まれて過ごしました。

その時空は、私に、二十代の頃に過ごしたヒマラヤ山中シェルパの村の悪霊祓いのあの夜の光景をありありと思い出させました。
これこそ正に「地と天」、「此岸と彼岸」との境界線上を往き来し、つなぐ行為です。
達陀が終わった時、私の横にいた息子を見やると、内陣に向かって手を合わせ、そして深々と頭を下げていました。私も思わずそれに倣って手を合わせました。(六田知弘)

 

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2025.03.07 町工場の工具
町工場の工具

一昨年の夏に「床の記憶」という写真展をした東京麹谷にある ギャラリー南製作所 という町工場を改装したギャラリーの2階に残された工具の写真を撮らせてもらいました。
オーナーのお父様が使ってられたものとのことですが、雨がしょぼつく室内の窓際に工具を置いて撮っていると、柔らかな光を受けたものたちが発するなんとも言えぬ静謐な波動に包まれて、久々に心安らぐ時間を過ごさせてもらいました。(六田知弘)

 

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2025.02.28 雪の大和
雪の大和

今週は奈良でも雪が降って、朝起きたら橿原の方でも結構屋根に積もりました。
早速、カメラを持って、近くの耳成山(みみなしやま)に登ったら、雪はやんでいるのですが、木々の枝葉から冷たい水が氷雨のように降ってきて、結構濡れてしまいました。それでも引き返すのももったいないので、木立の間から白化粧した奈良盆地を覗きながら、頂上まできたところで、陽が照ってきたと思ったら、同時に雪も降り出しました。こういうのは狐の嫁入りではなく、なんというのでしょう?
頂上の常緑樹は陽を浴びて明るく緑に輝き、地面や木々の間は白く輝いています。
母が元気な頃、毎朝この山に登っているんだと言っていたことを思い出しました。さすがにこんな雪の降る日は登らなかったでしょうけれど。(六田知弘)

 

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2025.02.21 タバコ屋さんの赤い文字
タバコ屋さんの赤い文字

故郷 奈良県御所のタバコ屋さんの店先です。
私の生家から直線距離で200mくらいでしょうか。この前撮ったウインドーに猫のいるハンコやさんからもう100mほど離れたところです。
ガラスのような羽目板に書かれたTABACCOという赤い文字はその近くの辻にあった「歯」という一文字が書かれた歯医者の看板とともに私が物心ついた最初の記憶に近いもの。ちょっと大きくなってからは、「いこい」という黄茶の紙包みに入ったタバコを父親の使いで買いに行った記憶もあります。
もちろんこの家はタバコの販売はとうの昔にやめているし、歯医者さんも引越して今はここにはないのですが、、。
自分の最初の記憶の手がかりが、七十年近く経った今も僅かでも残ってるというのは、ちょっと安心するというか、、、。やっぱりノスタルジアでしかないのでしょうけれど。(六田知弘)

 

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2025.02.14 韓国陶磁の図録
韓国陶磁の図録

コロナ前から関わっていた大阪市立東洋陶磁美術館の『李秉昌コレクション韓国陶磁―純真なる美』という図録がやっとできました。
総計350点を数える陶磁器の大半を私が、息子の春彦も何点か撮影させてもらいました。

長期にわたっての撮影でしたが、とっても楽しみながらやらせていただきました。
撮りながら、「あー これ欲しいな!」と、思うものが次々と撮影台にのせられてきて、ため息が出たり、時にはよだれが出たり、、、。
安宅コレクションとは違い、手のひらに載るような小さなものが多かったので余計にです。

どれかひとつあげるよ、と言われたらどれにしようか、なんて考えると本当に悩んでしまいます。出来上がった本のページを繰っては見惚れて立ち止まり、まためくるということを1時間以上も繰り返して、えいや!で決めたのが、この朝鮮時代初期とされる青磁の壺です。
高さ11.3cm 径14.4cmの白磁の胎土の上に青磁釉をかけた丸い小壺です。
胎土の白色が濁りのない緑青の釉薬を透かしてほのかに内側から発光しているようで、両手のひらに包み込んでもなお、熱した蛍石のように光り続けているのではないかと思うような、とても不思議な雰囲気を漂わせています。
こんなのは私は他で見たことはありません。撮影の報酬としてこれをもらえたらどんなに嬉しいことか!なんて馬鹿なことを考えてしまいます。
そんな楽しい仕事をさせてもらっている私は、なんやかやと言いながらも幸せ者かもしれません。(六田知弘)

 

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2025.02.07 小さな獅子
小さな獅子

やきものでできた小さな獅子を手に入れました。
これが作られたのは中国の唐時代ですので、なんと1200年以上前の事。
長沙窯のこうした小さな人形は小鳥や魚などはよくみますが、獅子を見たのは初めてです。
しっぽはとれて、釉剥げも目立ちますが、手のひらにおくと、しっくりとして、前からここにいるようななんとも親しげな目つきで私を見るので、思わず値段を聞いたら思いのほか安く、久々の衝動買いをしてしまいました。(六田知弘)

 

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2025.01.31 壁のシルシ
壁のシルシ

先日、若いカップルや親子連れで賑わう川越の旧市街を歩いていて、面白い壁を見つけたので写真を撮りました。
普通のセメント塗りの平面に何か四角い板状のものが貼り付けてあり、その微妙な色合いの違いと板の影やシミの具合が面白くてシャッターを何度か押しました。

家に帰ってその画像をパソコンのモニターを見ていてどこか不思議な感じがしました。
拡大したり、試しにコントラストを上げたりしていろいろと細部を見てみたら、どうやら壁には何も貼りつけられているわけではなく、全くの平面のようなのです。
おそらく以前はこの古い壁に何か箱のようなものが掛けられてあって後にその周りに新しく塗料が塗られ、それからしばらくしてから箱が取り外されて、その痕が残っているいうことなのではと推測しましたが、どうでしょう。
拡大して見てみると、幾分黄色い四角く幾分黄褐色の部分には、本当に古るそうな細かな字や絵の落書きがいっぱい残っていて思わずニヤリとしてしまいました。

思わぬところに、かつてこの世にあるものが存在した、そのシルシのような刻印が残っている。そんなところになぜか私は無意識のうちに引き寄せられて、レンズを向けてしまうのです。
今の私は、化石を集めるのが大好きだった少年の成れの果てとも言えるかもしれません。(六田知弘)

 

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2025.01.24 ウィンドウの中のネコ
ウィンドウの中のネコ

故郷、御所(ごせ)の夜を歩いていたら、私の生まれた家から100mほど離れた十字路の近くにあるはんこ屋さんのショーウィンドウが目に入りました。
このハンコ屋さんは私がものごころがついた時には既にあって、おっちゃんが座ってコツコツとハンコを彫っている様子を、通りがかりに外から見ていた記憶がうっすらと残っています。
いつの頃からか店は閉じられているのですが、ショーウィンドウは片付けられずに残されています。中にはハンコ屋さんの小さな看板や、表札の見本の他に、閉店後に入れられたのか、置き時計や造花やタヌキの置物などが並んでいて、それが薄暗い街灯の光を受けて物音ひとつしない静寂の中、不思議な雰囲気を醸し出しています。
カメラのピントをタヌキの置物に合わせて2〜3回シャッターを切りました。その時、全く音もなくファインダーの左下からぬーっと入ってきた物影が、、。
私は一瞬もののけかと身を引きましたが、あらため見てみるとそこにはきれいなトラ猫がいるではないですか。
さっきからここにいたのか、それともどこか外から入ってきたのかわかりませんが、、。
一瞬のうちにすっかりタヌキや置き時計と同じようにこのウィンドウの空間を構成するひとつのパーツとなったところからすると、おそらくこの場所が、このネコにとっては最も安心する、生涯の居場所ということなのでしょう。(六田知弘)

 

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2025.01.17 火と月と
火と月と

「ちわらのとんど」に久しぶりに行ってきました。
私が生まれた奈良県御所市にあるの茅原(ちはら)の吉祥草寺(きっしょうそうじ)は役行者(えんのぎょうじゃ)の生誕地とされるお寺です。その寺で毎年1月14日の小正月の夜にどんど焼きが行われます。高さ6mほどもある雄と雌一対の逆円錐形の大たいまつに火がつけれれて五穀豊穣や厄除けを祈願します。

今年はちょうど満月で、燃え盛る炎から舞い上がり渦を巻く真っ赤な火の粉と白い月影がお堂から流れ出てくる般若心経の声と混じりあい、私の意識も天へと昇っていきそうになりました。(六田知弘)

 

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2025.01.10 寝ても覚めても
寝ても覚めても

暮れから正月10日の今まで、寝ても覚めても一つのことをバカみたいに考え続けています。今はまだ具体的には言えないのですが、次にやるべき私の仕事。そのためになけなしのお金を叩いて新しいカメラを買ってしまいました。
テストを兼ねて撮ったのがこの写真です。
マンションの上の三日月は影の部分もくっきりと出ていて、月光を浴びた白い雲が綿菓子のようなボリュームを持って写し出されています。歩いていて月を見つけたので、ふと立ち止まって何気なく撮っただけなのにそれがこれだけ写っているとは、驚きました。
さて、これから何を出してこれるか、これないか。もう決して若くはない私ですが、自分のやるべきことをやり続けるほかはないとあらためて思う新年です。(六田知弘)

 

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